太陽は最も身近な恒星ですが、地球から見るだけでは限界があります。地球大気が紫外線・X線をブロックしてしまうため、太陽の本当の姿を捉えるには宇宙へ飛び出す必要があります。これまで多くの太陽探査機が打ち上げられ、太陽研究を大きく進歩させてきました。特に近年は「コロナに実際に飛び込む」という前代未聞の挑戦まで実現しています。

太陽探査機の挑戦
太陽に近づくほど熱・放射線が強烈になります。Parker Solar Probeはコロナの中まで突入し、表面から約600万km以内で観測を行う、太陽探査の最前線です。探査機の表面は1,400℃以上に達しますが、特殊な遮熱シールドのおかげで内部機器は28℃前後に保たれています。

なぜ探査機が必要なのか

地球上から太陽を観測するにはいくつかの根本的な障壁があります。

  • 大気の壁:地上では太陽からの紫外線・X線・γ線がほぼ大気に遮られ届かない。コロナ(数百万℃)は高エネルギーの光でしか見えないため、地上では観測できない。
  • 大気の揺らぎ:地上望遠鏡は大気の乱れ(シーイング)で解像度が制限される。宇宙から撮影すれば、理論上の最高解像度で観測できる。
  • 太陽風の直接観測:太陽風の粒子・磁場・速度を「現場で測る」には宇宙に出るしかない。地上のどんな望遠鏡でも不可能。
  • 太陽の極と裏側:地球から見ると太陽の赤道面付近しか見えない。極域や反対側を見るには宇宙からの観測が必須。
1,400℃Parker Solar Probe表面の温度
690,000 km/hPSP最高速度(史上最速の人工物)
約610万kmPSPが太陽表面から接近した最短距離(2024年)
30年以上SOHOの観測継続年数(1995年〜)

太陽探査の歴史

宇宙時代が始まった1950年代末から、人類は太陽探査機を打ち上げ続けてきました。

1
パイオニア計画(1960年代)
NASAの初期太陽探査。太陽風の存在を実証した。太陽風は「吹いている」ことは理論予測されていたが、パイオニア5・6・7・8・9号が直接観測で確認。
2
ヘリオス計画(1974〜1976年)
西ドイツ・NASAの共同ミッション。当時の記録として太陽から4,300万kmまで接近。太陽風の微細構造と磁場の測定で大きな成果。
3
ユリシーズ(1990〜2009年)
ESA・NASAの共同ミッション。木星の重力スイングバイを利用して太陽の極軌道に入った最初の探査機。太陽極域の太陽風と磁場を初めて直接観測。
4
SOHO・TRACE時代(1995〜2000年代)
地球―太陽のラグランジュ点(L1点)に常駐するSOHOが、コロナとCMEを連続観測。TRACE・RHESSIがフレアの詳細を解明。
5
ひので・SDO・STEREO時代(2006〜2010年代)
日本のひのでが磁場を精密観測。SDOが多波長の高解像度動画を提供。STEREOが太陽の立体視を実現。
6
Parker Solar ProbeとSolar Orbiter(2018〜現在)
太陽コロナへの突入と、極域観測という新段階へ。人類の太陽研究が最前線に到達。

代表的な探査機一覧

探査機機関打ち上げ年特徴・成果
Helios 1/2NASA/西ドイツ1974/1976年当時最接近、太陽風磁場を測定
UlyssesESA/NASA1990年太陽極域を初めて観測した唯一の探査機
SOHOESA/NASA1995年L1点常駐、コロナとCMEを30年以上連続観測
TRACENASA1998年コロナループを高解像度で初撮影
STEREO A/BNASA2006年太陽の両側から3D観測を実現
ひので(Hinode)JAXA/NASA2006年磁場観測で日本が世界をリード
SDONASA2010年多波長・高品質の太陽動画を公開
IRISNASA2013年彩層の超高解像度観測
Parker Solar ProbeNASA2018年太陽コロナに突入、史上最速・最接近
Solar OrbiterESA/NASA2020年太陽極域を見下ろす軌道

Parker Solar Probeの挑戦

NASAのParker Solar Probe(パーカー・ソーラー・プローブ、PSP)は、太陽物理学の先駆者ユージン・パーカー博士(太陽風の理論を1958年に予言した人物)にちなんで名付けられました。史上最も太陽に近づいた探査機であり、同時に史上最速の人工物です。

2024年12月24日、PSPは史上最接近の記録を更新し、太陽表面から約610万km(太陽半径の約8.8倍)まで近づきました。その時の速度は時速約69万km(秒速192km)。地球を1秒半で一周するほどの速度です。

これほど太陽に近づくと、探査機の向こう側(太陽に面した側)の表面温度は約1,400℃に達します。しかし特殊なカーボン複合素材(厚さ11.5cmのカーボンフォーム)の遮熱シールドで守られた内部は、なんと約28℃に保たれています。

太陽 地球 PSP近日点 (約610万km) 外側軌道:金星スイングバイを 繰り返して徐々に近日点を縮める 金星 PSPは金星の重力スイングバイを計7回行い、軌道を徐々に縮めています
Parker Solar Probeの軌道概念図。金星スイングバイを繰り返して近日点を太陽に近づけていきます。

PSPの観測で明らかになった重要な発見のひとつが「スイッチバック」と呼ばれる現象です。太陽風の中を磁場が急激に折り返す構造が多数検出されました。これが太陽風の加速や加熱に関係しているのではないかと考えられており、コロナ加熱問題(太陽の表面より外側のコロナがなぜ100万度以上に達するのか)の解明につながると期待されています。

Solar Orbiter

ESA(欧州宇宙機関)とNASAが共同運用するSolar Orbiter(ソーラーオービター)は、2020年2月に打ち上げられました。その最大の特徴は「太陽の極域を見下ろす」軌道です。

従来の太陽探査機はほぼ赤道面内の軌道を飛ぶため、太陽の極域をまともに観測できませんでした。Solar Orbiterは軌道傾斜角を徐々に高め、最終的には黄道面から約33度傾いた軌道から太陽の極を撮影します。これにより、太陽磁場の大規模構造(特に磁極の逆転現象)や、太陽風の起源に迫ることができます。

Solar Orbiterはまた、初めて太陽の南極の近接写真も撮影しており、「ナノフレア(極小フレア)」と呼ばれる微小な発光現象が表面で頻繁に起きていることも確認しました。

日本の貢献 ― ひので

JAXAと国立天文台が中心となって運用する「ひので(Hinode)」(2006年9月打ち上げ)は、3つの高精度望遠鏡を搭載しています。

  • SOT(太陽光学望遠鏡):50cmの光学望遠鏡。黒点・フレア周辺の磁場を精密測定。地上からは大気の揺らぎで難しい0.3秒角の解像度を実現。
  • XRT(X線望遠鏡):コロナのX線を撮像。フレアやコロナループの構造を観測。
  • EIS(極端紫外分光器):コロナの温度・速度・密度を分光観測で測定。

ひのでの主な成果としては、太陽のどこにでも存在する小規模な磁場構造(エフェメラル磁場、磁束管)の発見、フレアの直前の磁場変動の把握、コロナループ内の流れの直接観測などがあります。次世代衛星「SOLAR-C」も計画中で、日本は太陽物理学の最前線に立ち続けています。

SDO ― 太陽を動画で見る

NASAのSolar Dynamics Observatory(SDO)は2010年2月に打ち上げられ、地球の静止軌道(約36,000km)から太陽を24時間365日観測しています。その特徴は、最大4,096×4,096ピクセルの超高解像度画像を1分ごとに撮影し、10種類以上の波長で太陽の全体像を提供していることです。

SDOのデータは一般公開されており、NASA公式サイトで美しい太陽動画を誰でも見ることができます。フレアの瞬間映像やコロナループの構造など、太陽の「生きた姿」が記録されています。SDOが捉えた10年以上のデータは、太陽物理学の教科書を何冊も書き換えるほどの知見をもたらしています。

SOHO ― 30年のロングラン

SOHO(Solar and Heliospheric Observatory)は、ESAとNASAが共同で1995年12月に打ち上げた太陽観測衛星です。当初は2年間のミッション予定でしたが、2024年現在も稼働を続けており、30年近くにわたって太陽を観測し続けています。

SOHOの最大の功績のひとつは太陽振動学(日震学)の飛躍的な発展です。太陽表面の細かな振動を精密に測ることで、太陽内部の構造(対流層の深さ、自転プロファイルなど)を「音波で透かし見る」ことができるようになりました。また、CMEを発見するための太陽コロナグラフ(人工日食を作る装置)を搭載しており、年間何百ものCMEを記録し続けています。

これからのミッション

  • SOLAR-C(日本):JAXAが計画する次世代衛星。磁場とコロナを同時に高解像度で観測し、コロナ加熱問題への挑戦を目指す。
  • PUNCH(NASA):4機の小型衛星で太陽コロナから地球周辺までの太陽風の3D映像を取得する。2024年打ち上げ予定。
  • SunRISE:6機の超小型衛星を編隊飛行させ、太陽の電波バーストを月軌道から観測する。
  • MUSE(NASA):コロナ加熱に特化した次世代太陽観測衛星。磁力線のナノフレアによる加熱を検証する。

よくある疑問

Q. 太陽探査機はなぜ太陽に「落ちて」いかないのですか?
A. 探査機は太陽のまわりを公転しています。公転速度(遠心力)と太陽重力がつり合っているため、落ちません。太陽に近づくためには逆に「ブレーキをかける(減速する)」必要があり、これが非常に難しい点です。Parker Solar Probeは金星スイングバイを巧みに使って軌道を縮めています。
Q. 探査機はなぜ溶けないのですか?
A. コロナの温度は確かに100万℃以上ですが、コロナはプラズマ密度が非常に薄い(地球の大気の約10の10乗倍以上薄い)ため、実際に物体に伝わる熱エネルギーは想像より小さいです。また遮熱シールドが太陽に向いた面で熱を反射・放熱することで内部を保護しています。
Q. ひのでは何周年ですか?
A. 2006年9月打ち上げなので、2026年現在で20周年を迎えます。当初の設計寿命3年を大幅に超え、現役で観測を続けています。
Q. SDOの画像はどこで見られますか?
A. NASAのSDO公式サイト(sdo.gsfc.nasa.gov)で、最新の太陽画像と動画がリアルタイムで公開されています。無料でダウンロードも可能です。

用語整理・参考リンク

用語意味
太陽探査機太陽を観測する目的で打ち上げられた宇宙機の総称。
L1点地球と太陽の間の重力安定点。観測衛星の常駐に最適。
コロナグラフ太陽の本体を隠して外層コロナだけを観測する装置。人工日食を作る。
スイングバイ惑星の重力を利用して探査機の速度や方向を変える航法。
遮熱シールド太陽近傍で機器を守る耐熱材料。PSPはカーボン複合素材を使用。
日震学太陽表面の振動を観測して内部構造を推定する学問。
スイッチバック太陽風磁場が急激に折り返す現象。PSPが多数発見。