夜空に広がるオーロラ、突然つながらなくなる衛星電話、ズレが大きくなったGPS——これらはすべて、宇宙天気(うちゅうてんき、Space Weather)と呼ばれる現象が引き起こしています。地球上の天気と同じように、宇宙にも「荒れる日」と「穏やかな日」があり、その主役は約1億5千万km離れた太陽です。

宇宙天気は、もはや天文マニアだけの話題ではありません。GPSカーナビ、スマートフォン、飛行機の通信、電力網、人工衛星——私たちの文明は宇宙天気の影響を直接受けるインフラに依存しています。1989年にカナダ・ケベック州で起きた大停電も、2003年の「ハロウィン嵐」で日本の衛星が機能停止したのも、すべて宇宙天気が原因でした。

この記事では、宇宙天気の全体像を「何が起きているのか」「なぜ起きるのか」「私たちにどう影響するのか」という流れで、初めて学ぶ方でも理解できるよう、図解や事例を豊富に使って解説していきます。

このページで学べること
宇宙天気の定義と全体像/太陽フレア・CME・太陽風の仕組み/地球到達までの旅路/磁気嵐・オーロラ・電離圏擾乱のメカニズム/GPS・通信・電力網への影響/歴史的大イベント/宇宙天気予報の読み方/日本の観測体制

宇宙天気とは何か ― 全体像を掴む

「天気」という言葉は、地球の大気の状態(晴れ・雨・台風など)を指します。それと同じように、宇宙天気とは、太陽から放射されるエネルギーや粒子によって、地球周辺の宇宙空間の状態が変化する現象の総称です。英語では "Space Weather" と呼びます。

地球の天気は大気圏内の現象ですが、宇宙天気は地球と太陽のあいだ、そして地球の磁気圏・電離圏という「宇宙空間の層」に影響します。目には見えませんが、電子機器や電磁波を使うあらゆるインフラに実害をもたらす、非常に実用的な問題です。

太陽 フレア CME 地球 L1点 太陽風(常時) CME(突発的噴出) 磁気圏で防御・吸収
宇宙天気の全体像。太陽は常に太陽風を吹き出し(黄色の矢印)、突発的にCMEを放出します(赤)。地球の磁気圏がこれらを受け止め、磁気嵐やオーロラを生み出します。L1点の観測衛星が地球への「最前線警戒所」です。

太陽〜地球の距離

約1億5000万km

光は約8分、太陽風は2〜4日かけて到達します。

宇宙天気の主役

太陽活動

フレア・CME・太陽風の3つが主な原因です。

活動の周期

約11年

太陽活動は約11年周期で極大と極小を繰り返します。

予報機関

世界10か国以上

日本・米国・欧州・オーストラリアなどで24時間体制。

宇宙天気を引き起こす太陽の三大現象

宇宙天気の「嵐」を引き起こす原因は、主に太陽で起きる3種類の現象です。それぞれ性質も影響するタイミングも異なります。

太陽フレア X線・紫外線・高エネ粒子 到達:約8分(光速) 主な影響: デリンジャー現象 (短波通信途絶) 持続:数分〜数時間 CME プラズマ雲・磁場 到達:2〜4日 主な影響: 磁気嵐・オーロラ 大規模停電リスク 持続:1〜3日 太陽風 常時プラズマ流 到達:2〜4日(常時) 主な影響: 弱い磁気嵐・オーロラ コロナホール起源 持続:数日(繰り返す)
宇宙天気の三大現象の比較。フレアは光速で到達する一方、CMEと太陽風は数日かけてゆっくり地球に届きます。それぞれ影響の種類と持続時間が異なります。

この3つは互いに独立した現象であり、同時に起きることも、単独で起きることもあります。特にフレアとCMEが連動して起きたときは、地球への影響が最大化されやすく、宇宙天気の現場では最も警戒される状況です。

太陽フレア ― 宇宙最大の爆発

太陽フレア(Solar Flare)は、太陽表面で起きる爆発現象です。ひとつのフレアが放出するエネルギーは、水爆の約100億倍とも言われており、文字どおり宇宙最大クラスの爆発のひとつです。

フレアが起きると、X線・紫外線・可視光・電波・高エネルギー粒子が、ほぼ光速で宇宙空間に放出されます。地球まで届くのは約8分——地球の昼間側の大気(電離圏)がこのエネルギーを受けて急激に電離し、短波通信が突然つながらなくなります。これをデリンジャー現象(電離圏嵐)と呼びます。航空機が極域ルートを飛ぶときに影響が出やすく、パイロットはリアルタイムで宇宙天気情報を確認しています。

フレアの規模分類(GOES X線強度) X級(10⁻⁴ W/m² 以上):最大規模。大停電・大磁気嵐のリスク M級(10⁻⁵):中規模。電波障害・弱い磁気嵐 C級(10⁻⁶):小規模。地球への影響は限定的 B級(10⁻⁷):非常に小さい A級(最小) ← 小さい 大きい →
NOAAによるフレアの規模分類。X1からX10以上まで数値が大きいほど強力で、X10を超えると「特大フレア」として世界的に警戒されます。1989年のケベック大停電の原因はX15クラスとも推測されています。
太陽フレアの様子
太陽フレアは黒点群の複雑な磁場が一気に解放されるとき、表面から激しい光と粒子を吹き出します。発生後わずか8分で地球の電離圏に到達し、短波通信に即座に影響を与えます。
磁気再結合 ― フレア発生の物理的しくみ ① 磁場が蓄積する 電流シート N極 S極 エネルギー蓄積中 不安定化 ② 再結合・エネルギー解放 X点 高エネ粒子・X線噴出 プラズマジェット 磁気エネルギー→運動/熱エネルギー X線は光速(8分)で地球へ
磁気再結合のメカニズム。反対方向の磁力線が接触し「X点」で切断・つなぎ変わることで、蓄積されていた磁気エネルギーが一気に解放されます。これがフレアの正体です。解放されたエネルギーは高エネルギー粒子・X線として光速で宇宙へ飛び出します。
豆知識:フレアは突然の爆発ですが、「何もないところ」からは起きません。磁場が複雑に絡み合った黒点群の上空で、蓄積されたエネルギーが磁気再結合によって一気に解放されるときに発生します。黒点群が地球向きを向いているときに起きるフレアが、特に影響が大きくなります。

コロナ質量放出(CME) ― プラズマの巨大噴出

コロナ質量放出(CME:Coronal Mass Ejection)は、太陽のコロナ(外層大気)から、数十億トンものプラズマと磁場が一気に宇宙空間に飛び出す現象です。フレアと混同されやすいですが、フレアが「光(電磁波)の爆発」であるのに対し、CMEは「物質の塊が実際に飛んでくる」という点が根本的に違います。

CMEが地球方向に向かって飛び出すと、2〜4日かけて地球の磁気圏に到達します。CMEが持つ磁場の向き——特にBz(南北成分)が南向きになっていると、地球の磁場とつながりやすくなり(磁気再結合)、大量のエネルギーが磁気圏に流れ込んで磁気嵐を引き起こします。

CMEと太陽風の関係
CMEは太陽風の流れの中を「泡」のように進んでいきます。前面に衝撃波(CME衝撃波)を作りながら進み、地球の磁気圏に衝突すると急激な圧縮と磁気嵐を引き起こします。
CMEの地球到達タイムライン(速度:約500 km/s の場合) 0日目 1日目 2日目 3日目 3.5日目 太陽 CME噴出 約0.5 AU通過 約0.75 AU通過 L1点観測 警報発令(〜60分前) 地球到達 磁気嵐開始 地球 衝撃波 ⚠ Bzの向きはL1点まで不明 南向きになると磁気嵐が激化
CMEの地球到達タイムライン(速度500 km/s の例)。噴出後、2〜4日かけて地球に到達します。L1点(太陽側150万km)の観測衛星が約30〜60分前に警報を発しますが、磁気嵐の強さを決定するBzの向きはL1点に届くまで確定できません。

CMEの速度は多様で、毎秒100kmに満たない遅いものから、毎秒3,000kmを超える超高速CMEまであります。速いCMEほど到達が早く、地球の磁気圏を急激に圧縮するため、より激しい磁気嵐になりやすいです。

CMEとフレアは必ずセットで起きるの?
いいえ。フレアが起きてもCMEを伴わない場合もありますし、CMEがフレアなしで起きることもあります。ただし、大きなX級フレアの多くはCMEを伴い、この「フレア+CME」のコンビが宇宙天気的に最も危険なシナリオです。

CMEの質量

10億〜100億トン

大型CMEはエベレスト10,000座分にも相当する質量。

CMEの速度

100〜3000+ km/s

速いものは太陽を出てから約18時間で地球に到達。

年間発生数

活動極大期:数/日

活動極小期は週1〜2回程度まで減少します。

予報精度

到達予測±12時間

Bzの向きは地球直前まで確定できないのが現状。

太陽風 ― 絶えず吹き続けるプラズマの風

フレアやCMEが「イベント型」の現象であるのに対し、太陽風(Solar Wind)は太陽が生きている限り常に吹き続けている背景の流れです。太陽コロナ(100万度以上の高温外層大気)から、陽子・電子からなるプラズマが四方八方に流れ出し続けています。

太陽風は大きく「高速太陽風」(秒速600〜800km)と「低速太陽風」(秒速300〜500km)の2種類に分かれます。高速太陽風は、コロナの磁力線が宇宙空間へ開いた領域「コロナホール」から噴き出します。コロナホールは約27日で地球側を向くため、同じ時期に繰り返し高速風が来る「27日回帰性」があります。

太陽風のイメージ
太陽風は太陽の全方向に向かって吹き出し、太陽系全体を覆う「太陽圏」を作っています。地球はこの太陽風の中にあり、磁気圏が防御壁として機能しています。
パーカーらせん ― 太陽風の磁場構造 太陽 自転(27日周期) 地球 約45° (地球軌道付近) 太陽風の磁力線(らせん) 地球軌道(1 AU) コロナ ホール
パーカーらせん(Parker Spiral)。太陽が自転しながら太陽風を吹き出すため、太陽風が運ぶ磁力線はらせん状に広がります。地球軌道付近では太陽風の向きが太陽−地球を結ぶ直線から約45°傾いており、宇宙天気予報でL1点のデータを解析するときにこの角度を考慮します。コロナホールからは高速太陽風(600〜800 km/s)が噴き出し、27日周期で繰り返し地球に到達します。

太陽の自転により、太陽風が運ぶ磁場はらせん状(パーカーらせん)に伸びていきます。この構造のため、太陽の赤道付近から吹き出した太陽風は、地球の公転方向と反対斜めからやってくることになります。宇宙天気予報でL1点の衛星データを読む際には、この角度を考慮することも重要です。

地球の防御シールド ― 磁気圏のしくみ

地球には巨大な磁場があります。この磁場は地球中心部の液体鉄が対流することで生まれ、地球を包む見えない「防御シールド」として機能しています。これが磁気圏(Magnetosphere)です。

太陽風が磁気圏にぶつかると、昼側では磁気圏が圧縮され、夜側では彗星の尾のように長く引き伸ばされます。この形状は太陽風の圧力によって刻々と変化しており、穏やかな日は「昼側の端」が地球から約6〜10万kmに位置しますが、強いCMEが来ると約3万kmまで押し込まれることもあります。

太陽風 弓状衝撃波 磁気圏界面 地球 磁気圏尾部(夜側) 放射線帯 太陽側:磁気圏が圧縮される    夜側:長く引き伸ばされる
地球の磁気圏の断面図。太陽側では太陽風の圧力で磁気圏が圧縮され、「弓状衝撃波」が形成されます。夜側は彗星の尾のように長く伸びた「磁気圏尾部」ができます。内部のドーナツ型構造は「放射線帯(ヴァン・アレン帯)」。

磁気圏は完全な壁ではなく、太陽風からエネルギーを受け取ります。特にCME到達時や、太陽風の磁場が南向き(Bz<0)になるとき、地球の磁場と太陽風の磁場が「つなぎ変わる」磁気再結合が起き、大量のプラズマと電流が磁気圏内に流れ込んで磁気嵐を起こします。

磁気圏がなかったら?
火星はかつて磁場を失い、太陽風が大気を少しずつ削り取っていきました。現在の火星の大気は地球の1%程度しかなく、液体の水が存在できない環境になっています。地球の磁気圏は、液体の水・大気・生命を守る根本的な盾なのです。

磁気嵐とオーロラ ― 宇宙天気の見える顔

磁気嵐(Geomagnetic Storm)は、CMEや高速太陽風が地球の磁気圏を激しく乱す現象です。地磁気が急激に変動し、電流が磁気圏・電離圏・地表を流れ、様々な障害を引き起こします。磁気嵐の強さはKp指数(0〜9)やDst指数で表され、Kp=5以上を「磁気嵐」、Kp=7以上を「強い磁気嵐」と分類します。

一方、オーロラ(Aurora)は磁気嵐の「美しい顔」です。磁気圏に取り込まれた荷電粒子が、磁力線に沿って極域に降り込み、高度100〜300kmの大気分子(窒素・酸素)と衝突して発光します。酸素が緑(高度100〜150km)や赤(200km以上)に、窒素が青や紫に光ります。

地球 電離圏 荷電粒子(太陽風・CME由来) オーロラ オーロラ 粒子が磁力線に沿って極域へ降り、大気分子と衝突して光る
オーロラの発生メカニズム。太陽からやってきた荷電粒子が、地球の磁力線に沿って南北の極域へ導かれ、高度100〜300kmで大気分子と衝突して発光します。磁気嵐が強いほど、オーロラは低緯度まで広がります。

通常、オーロラは北緯・南緯65〜70度の「オーロラベルト」でよく見られますが、強い磁気嵐(Kp=8〜9)になると、北海道や北欧の低緯度でも観測されます。2024年5月に起きたG5(最大級)磁気嵐では、日本の北海道や本州北部でも赤いオーロラが観測され、大きな話題になりました。

オーロラと宇宙天気の関係
オーロラは宇宙天気の「見える顔」です。美しい光のカーテンは、磁気嵐のエネルギーが大気発光という形で現れたもの。夜空を彩るオーロラの背後では、電力網・衛星・GPS・通信への影響も同時に進行しています。

電離圏擾乱とGPS・通信への影響

地球の上空60〜1000kmには電離圏という層があります。太陽の紫外線やX線によって大気が電離され、大量の自由電子が存在する層で、無線電波の反射や屈折に深く関わっています。

宇宙天気の擾乱(じょうらん)があると、この電離圏の電子密度が急変し、電波の通り道が変わります。

  1. GPS精度の低下:GPS信号(マイクロ波)が電離圏を通るとき、電子密度の変動で信号が遅延・屈折します。通常の誤差数cmが、嵐の時には数m以上になることも。農業機械の自動操舵、飛行機の着陸支援(ILS補助)、測量などで問題が生じます。
  2. 短波通信の途絶(デリンジャー現象):フレアのX線が昼間側の電離圏をオーバーイオン化すると、短波(HF)がそのまま吸収されて地上まで届かなくなります。発生から数分で起き、フレア終了後1〜2時間続きます。
  3. 衛星通信の障害:電離圏の「シンチレーション(電波のちらつき)」が起きると、衛星電話・データ通信が不安定になります。赤道域・極域付近で特に頻発します。
  4. 宇宙機の帯電:高エネルギー粒子が人工衛星の表面や内部に蓄積し、静電放電(ESD)を起こして電子回路を破壊することがあります。
電離圏の層構造と宇宙天気による影響 地表(0 km) D層(60〜90 km) フレア時に強化→短波吸収(デリンジャー現象) E層(90〜150 km) 電波の反射・散乱。磁気嵐時に電流系(電離圏電流)が強化される F1層(150〜200 km) 昼間のみ出現。短波通信の長距離反射に利用 F2層(200〜500 km)★最重要層 電子密度が最大。GPS信号の遅延・屈折が最も大きく発生する 磁気嵐時に電子密度が乱れ、GPS誤差が数m〜数十mに拡大 プラズマ圏・磁気圏(500 km〜) GPS衛星高度(約20,200 km)はここを遥か上空に飛行 GPS衛星 (20,200 km) 正常時(誤差 数cm) 磁気嵐時(誤差 数m〜) 500 200 90 60 0 高度 (km)
電離圏の層構造と宇宙天気による影響。GPS信号は地上〜衛星(約20,200 km)の往復でF2層を通過します。磁気嵐や太陽フレアで電子密度が乱れると、信号経路が曲がり(赤い矢印)、通常数cmの測位誤差が数m〜数十mに拡大します。D層の強化がデリンジャー現象(短波通信途絶)の直接原因です。
太陽高エネルギー粒子(陽子フラックス)の変動データ
太陽高エネルギー粒子(陽子フラックス)の観測データ。大きなフレアやCMEが起きると、高エネルギー陽子のフラックスが急増します。この「陽子イベント(SPE)」は、航空機乗務員や宇宙飛行士の被ばく線量増加に直結します。

社会インフラへの影響 ― 電力・衛星・航空

宇宙天気の影響は「宇宙の話」で終わりません。現代文明が依存するインフラは、宇宙天気に対して驚くほど脆弱な部分を持っています。

宇宙天気 イベント 電力網 GIC→変圧器損傷 人工衛星 帯電・軌道変化 航空 極域迂回・被ばく↑ GPS・測位 精度低下・誤差増大 無線通信 デリンジャー現象
宇宙天気が影響する社会インフラの全体図。電力網・人工衛星・航空・GPS・無線通信のすべてが、宇宙天気の影響を受けます。特に電力網への地磁気誘導電流(GIC)は、変圧器の損傷→大規模停電につながる深刻なリスクです。

電力網への地磁気誘導電流(GIC)は、磁気嵐の最も深刻なリスクのひとつです。磁気嵐の間、地球の磁場が急激に変化すると、地表面に電流が誘導されます。この電流は長距離の送電線に乗り、変圧器に直流偏磁を起こして異常発熱・損傷を引き起こします。現代の超高圧変圧器は交換に2年かかることもあり、大規模停電が長期化するリスクがあります。

宇宙飛行士の被ばくリスク:宇宙飛行士(特にISS滞在中)は磁気圏の外にいるわけではありませんが、強い太陽陽子イベント(SPE)が起きると被ばく線量が急増します。大きなSPEが起きると、飛行中の乗務員は「放射線シェルター」に避難する手順が定められています。高高度を飛ぶ旅客機の乗務員も、極域ルートでの被ばく線量管理が義務付けられています。

歴史を変えた宇宙天気の大事件

宇宙天気の「本当の怖さ」は、歴史上の大事件を振り返るとよく分かります。過去の主要な宇宙天気イベントを年表形式で見てみましょう。

1859年 キャリントン・イベント 史上最大規模の磁気嵐。電信ネットワークが大混乱、 キューバでもオーロラ観測。現代なら数兆ドルの被害推定。 1989年 ケベック大停電 X15クラスフレア+巨大CME。カナダ・ケベック州 600万人が約9時間停電。GICで変圧器が損傷。 2003年 ハロウィン嵐 X17・X28超巨大フレア連発。日本の地球観測衛星 「みどりII」が機能停止。スウェーデンで停電発生。 2012年 地球ニアミスCME 1859年以来最大規模のCMEが地球を"かすった"。 軌道が違えば文明規模の被害になったと専門家が指摘。 2024年5月 G5磁気嵐 2003年以来の最大規模。日本・北海道でもオーロラ観測。 農業用GPS誤差が問題化。世界各地で衛星障害も報告。 1859 1989 2003 2012 2024
歴史的な宇宙天気の大事件年表。1859年のキャリントン・イベントは現代の電力・通信インフラに重大な被害を与えうる規模で、現在でも「最悪のシナリオ」として研究・対策が続いています。

1859年のキャリントン・イベントは、観測史上最大の磁気嵐です。ヨーロッパ・北米の電信ネットワークが混乱し、電信機が自然発火する事例も起きました。現代の電力・通信インフラに同規模の嵐が来たら、被害総額は数兆ドルを超えるという試算もあり、各国政府が対策を急いでいます。

「宇宙天気ハザード」への備え:日本では国土交通省・気象庁・情報通信研究機構(NICT)が連携して宇宙天気予報を運用しています。アメリカのNOAA/SWPCはリアルタイム予報と警報を無料公開しており、電力会社・航空会社・衛星運用者が日常的に参照しています。

宇宙天気予報 ― 読み方と活用法

宇宙天気は「予測できないもの」ではありません。太陽観測衛星と地球周辺の観測衛星、地上の観測網を組み合わせることで、数時間〜数日先の予報が可能です。

太陽観測 SDO / SOHO Hinode(ひので) 途中経路監視 DSCOVR / ACE (L1点:約150万km) 地球周辺観測 GOES / 地磁気計 電離圏観測網 予報・警報発信 NOAA/SWPC(米) NICT(日本) ESA / 各国機関 主なインデックスと意味 Kp指数:0〜9 地磁気活動度の指標 Dst指数:nT値 磁気嵐の強度指標 Bz:南北磁場成分 磁気嵐発生の鍵 NOAA規模:G1〜G5 磁気嵐の5段階評価
宇宙天気予報の観測〜発信の流れ。太陽→途中経路(L1点)→地球周辺という多段階の観測網が、予報精度を支えています。L1点の観測衛星は「30〜60分前」の地球到達警告を出せる最前線です。

宇宙天気予報を読む上で重要な指標を理解しておきましょう。

  • Kp指数(0〜9):地球全体の地磁気活動を0〜9の数値で示します。Kp=5以上が「磁気嵐(G1〜G5)」。数値は約3時間ごとに更新されます。
  • Dst指数:赤道付近の水平磁場成分の変動量(nT)。マイナスが大きいほど強い磁気嵐で、−100nT以下を「強い磁気嵐」、−250nT以下を「激しい磁気嵐」と呼びます。
  • Bz(惑星間磁場南北成分):太陽風が運ぶ磁場の南北方向。Bzが南向き(負の値)になると磁気嵐が起きやすくなります。L1点の観測で確認できますが、値が確定してから地球到達まで約30〜60分しかありません。
  • フラックス(GOES X線強度):フレアの検出に使います。X線強度の急増がフレア発生のサインです。
無料で使える予報サービス:NOAAのSWPC(swpc.noaa.gov)では、Kp予報・CMEアラート・フレア速報をリアルタイムで無料公開しています。スマートフォンアプリ「Space Weather」なども人気です。日本語では情報通信研究機構(NICT)の「宇宙天気予報」(nict.go.jp/space)が詳しい解説付きで利用できます。

日本の宇宙天気観測体制

日本は世界有数の宇宙天気観測・研究体制を持っています。

NICT 情報通信研究機構 宇宙天気予報センター 国立天文台 NAOJ 太陽電波・光学観測 花山天文台 京都大学 太陽可視光・Hα観測 JAXA 宇宙航空研究開発機構 衛星観測・研究 太陽観測衛星「ひので(Hinode)」 JAXA/NASA/ESA共同。太陽磁場・コロナの高精度観測
日本の主要な宇宙天気観測機関。NICTが予報の中核を担い、国立天文台・花山天文台・JAXAが観測データを提供します。太陽観測衛星「ひので」はNASA・ESAとの共同ミッションで、世界最高水準の太陽磁場観測を行っています。

日本の太陽観測衛星「ひので(Hinode)」は2006年に打ち上げられ、太陽表面の磁場構造やコロナの細部を高精度で観測し続けています。黒点磁場・フレア発生前の磁場変化・コロナの温度分布など、地上観測では得られない情報を提供しており、世界の宇宙天気研究に貢献しています。

太陽の磁場構造
太陽磁場の観測画像。黒点を中心に複雑に絡み合う磁場(白が北極、黒が南極)が、フレアやCMEのエネルギー源です。「ひので」などの衛星がこの磁場を高精度で観測し、フレア予測の精度向上に役立っています。

よくある疑問・誤解を解消する

宇宙天気は地球の気候変動に関係ある?
長期的な太陽活動の変動(太陽定数の増減)は気候に微小な影響を与えますが、現在の気候変動(温暖化)の主原因ではないと科学的コンセンサスがあります。宇宙天気(短期的な宇宙環境変動)と気候変動(数十年〜数百年スケール)は、タイムスケールが全く異なります。
磁気嵐が来ると体調が悪くなるって本当?
科学的に確認された直接的な因果関係はありません。ただし、一部の研究で地磁気変動と偏頭痛・睡眠障害の相関を示すデータもあり、研究が続いています。「地磁気で体調が乱れる」は科学的に否定も断言もできない状況です。
太陽フレアで放射線被ばくするの?
地上にいる分には、地球の大気と磁気圏が守ってくれるためほぼ問題ありません。ただし、高高度を飛ぶ航空機の乗務員や宇宙飛行士は、大型フレア時に被ばく線量が増加します。
宇宙天気予報は当たるの?
CMEの到達時刻は±12時間程度の精度。Bzの向きは地球に届いてみないと確定できないため、磁気嵐の強さの予報は難しいのが現状です。それでも「警戒すべき期間」を事前に絞り込む意味は大きく、電力会社・衛星運用者が毎日参照しています。
今すぐ宇宙天気を確認できる?
はい。NICT宇宙天気予報センター(nict.go.jp/space)やNOAA/SWPCのサイトで、現在のKp値・フレア状況・CMEアラートをリアルタイムで無料確認できます。

用語集・参考リンク

用語意味・解説
宇宙天気太陽活動に起因する地球周辺の宇宙環境変動の総称。Space Weather。
太陽フレア太陽表面での爆発現象。X線・紫外線・高エネルギー粒子を光速で放出。A〜X級に分類。
CMEコロナ質量放出。太陽コロナから巨大なプラズマ・磁場の塊が宇宙に飛び出す現象。
太陽風太陽コロナから常時流れ出す荷電粒子(陽子・電子)の流れ。
磁気圏地球磁場と太陽風がせめぎ合って作る空間。大気・生命を守る盾。
磁気嵐CMEや高速太陽風で地磁気が激しく乱れる現象。Kp指数5以上が磁気嵐。
オーロラ荷電粒子が磁力線に沿って極域に降り、大気分子と衝突して発光する現象。
デリンジャー現象フレアのX線が電離圏をオーバーイオン化して短波通信が途絶する現象。
電離圏高度60〜1000kmの、太陽紫外線で電離した大気の層。電波反射・GPS遅延に関係。
GIC地磁気誘導電流。磁気嵐で地磁気が変化すると地表の送電線に誘導される電流。
Kp指数地球全体の地磁気活動を3時間ごとに0〜9で示す指数。5以上が磁気嵐。
Bz太陽風が運ぶ惑星間磁場の南北成分。南向き(負)のとき磁気嵐が起きやすい。
L1点地球と太陽のあいだの重力平衡点(約150万km)。宇宙天気監視衛星の定位置。
コロナホール太陽コロナ上の磁力線が開いた暗い領域。高速太陽風の主な発生源。
SPE太陽陽子イベント。高エネルギー陽子が急増し、極域・宇宙での被ばくリスクが増す。