皆既日食の写真で、太陽の縁から赤い炎のような塊が立ち上っているのを見たことはありませんか? あれがプロミネンス(Prominence、紅炎)です。太陽表面から大気層(コロナ)の中へ立ち昇る、長さ数十万kmにも及ぶ巨大なプラズマの雲。地球サイズに換算すると、何個分もの大きさが空中に浮いている計算です。

プロミネンスは、太陽現象のなかでも視覚的にもっとも印象的なもののひとつ。Hα(水素アルファ線)という赤い光で太陽を観測すると、まるで巨大な噴水のように、ゆっくり、しかし力強く、磁力線にぶら下がる炎のように見えます。なぜプロミネンスは宙に浮いていられるのか、なぜ崩壊するとCMEになるのか——詳しく解説します。

ひとことで言うと?
プロミネンスは、太陽の磁場(磁力線)に支えられて空中に浮く、巨大なプラズマの雲。温度は約5,000〜10,000℃、コロナ(100万℃以上)の中に浮かぶ「冷たい島」です。

プロミネンスの正体

プロミネンスは、太陽の彩層・コロナの中に浮かぶ、比較的「冷たい」プラズマの雲です。「冷たい」と言っても、温度は5,000〜10,000度。周囲のコロナが100万度以上の高温なので、それと比べると圧倒的に低温です。コロナの中で、周りより温度が低く密度が100倍以上濃い領域——それがプロミネンスです。

長さは数万〜数十万km、高さは数千〜数万km。最大級になると、太陽の直径の3分の1にも達することがあります。地球をその中に並べたら、何十個も飲み込まれてしまうサイズです。

5,000〜10,000℃プロミネンスの温度(コロナの100分の1以下)
数十万km大型プロミネンスの長さ(地球直径の数十倍)
数日〜数ヶ月安定型プロミネンスの持続時間
100倍以上コロナに対するプロミネンスの密度比
磁力線(プロミネンスを支える) プロミネンス(紅炎) 高さ:数千〜数十万km 温度:約5,000〜10,000℃ コロナは100万℃以上
プロミネンスは太陽の縁に立ちのぼる、磁力線に支えられたプラズマの雲です。太陽の縁から見ると「赤い炎」として見え、太陽面の上から見ると「黒い筋(フィラメント)」に見えます。

なぜ宙に浮いていられるのか

1万度のプラズマが、100万度のコロナの中に「冷えた塊」として浮き続けているのは、よく考えれば不思議です。普通なら、すぐに温められて拡散してしまうはずです。それを可能にしているのが磁場の力です。

プラズマは電気を帯びているので、磁力線に沿って動くことができますが、磁力線をまたいで横切るのは難しい性質があります。プロミネンスは、太陽表面に立ち上がったアーチ状の磁力線の「谷」の部分に、プラズマがハンモックのようにぶら下がって支えられている状態です。

また、プロミネンスが安定して浮いていられるのは、熱的絶縁が効いているためでもあります。コロナの熱はプロミネンスを取り巻く磁力線によってブロックされ、プロミネンス内部が一気に加熱されるのを防いでいます。磁力線が安定している限り、プロミネンスは何日も、ときには数週間〜数ヶ月にわたって浮き続けます。

プロミネンスとフィラメント ― 同じもの?

太陽の表面(光球)の上に黒い筋のような構造が見えることがあります。これをフィラメント(Filament、暗条)と呼びます。実はこのフィラメント、太陽の縁から見たらプロミネンスと同じものなのです。

縁で見る → プロミネンス(赤い炎) = 表面上から見る → フィラメント(黒い筋) 同じ構造・異なる視点
プロミネンスとフィラメントは同じ構造です。太陽の縁(周囲が暗い宇宙)から見ると赤く輝いて見え(プロミネンス)、太陽面上(周囲が明るい光球)から見ると暗く見えます(フィラメント)。

太陽の自転(約27日で1回転)によって、フィラメントとして見えていたものが縁に移動すると、突然「プロミネンス」として赤く立ち上がって見えるようになります。観測の現場では、大きなフィラメントの消失・噴出を監視することが、CME予報の重要な手がかりになっています。

2つのタイプ ― 静穏型と活動型

プロミネンスには、性質の異なる2つの大きなタイプがあります。

1
静穏型プロミネンス(Quiescent Prominence)
黒点や活動領域から離れた場所にゆっくり形成され、数週間〜数ヶ月持続するもの。穏やかな構造で、シート状や巻物状になることが多い。変化が遅く、高緯度の領域に形成されやすい。
2
活動型プロミネンス(Active Prominence)
黒点群(活動領域)の近くに発生し、急速に変化して数時間〜数日で消えるもの。フレアやCMEと関連して噴出することが多く、ループ状・噴出状・ヘッジホッグ状など多彩な形を示す。

プロミネンスの一生

プロミネンスは形成→安定→噴出(または消散)というサイクルをたどります。

  • 形成期:彩層から冷たいプラズマが磁力線に沿って上昇し、磁力線の谷部分に溜まり始める。数日かけて徐々に成長。
  • 安定期:磁場のバランスが保たれている間は、形が大きく変わらない状態が続く。静穏型は何ヶ月も安定することがある。
  • 噴出・消散:磁場が不安定化すると突然崩壊。①プラズマが太陽表面に落下して消える「レイン型」と、②宇宙空間に放出される「噴出型(Eruptive)」がある。噴出型はCMEの引き金になることが多い。

フレア・CMEとの関係

プロミネンスとフレア、CMEは別の現象ですが、深く関係しています。プロミネンスを支える磁場構造が突然不安定になると、プラズマが上昇しはじめます。その勢いで磁場が再結合してエネルギーが解放されます——これがフレアです。同時に放出された物質がCME(コロナ質量放出)として宇宙空間に飛び出していきます。

プロミネンス噴出→フレア→CMEという連鎖が、宇宙天気イベントの典型的なパターンです。観測の現場では、大きなフィラメントの「消失」が見えたら、フレアやCMEの発生を疑います。

重要な区別点として、プロミネンスとフレアは別物です。プロミネンスは浮かぶプラズマ塊であり、フレアは磁気エネルギーが急放出される爆発現象です。大きなプロミネンスが噴出しても、必ずしも大きなフレアを伴うとは限りません。

プロミネンスの形の種類

形の種類特徴
アーチ型(Loop)アーチ状のループ構造。活動領域の近くに多い。
カーテン型(Hedgerow)幕のように広がる大きなシート状。静穏型に多い。
ヘッジホッグ型針山のように放射状に突き出る。活動が活発な時期に多い。
噴出型(Surge)細い柱状に高く噴き上がる。フレアに伴うことが多い。
ループ噴出型(Loop Eruptive)ループ全体が宇宙空間に飛び出す最も派手なタイプ。CMEの引き金になる。

どう観測するのか

プロミネンスを地上から観測するには、Hα(エイチアルファ)フィルターを使います。これは波長656.3ナノメートルの赤い光だけを通すフィルターで、水素プラズマがよく発光する波長です。コロナグラフという特殊な望遠鏡で太陽本体を遮ると、皆既日食でなくてもプロミネンスを観測できます。

NASA SDO(太陽動態観測衛星)のAIA(大気撮像装置)は、可視光だけでなく極端紫外線・X線の複数波長でプロミネンスをリアルタイム撮影しており、動画が一般公開されています。京都大学花山天文台も国内最大のHα太陽望遠鏡でプロミネンスの観測を続けています。

家庭でプロミネンスを観察するには
Hα太陽望遠鏡(市販品:数万円〜数十万円)を使うと、自宅からでもリアルタイムでプロミネンスが楽しめます。無料で見るには、NASAのSDOウェブサイトで最新の太陽動画をいつでも視聴できます。

よくある疑問

Q. プロミネンスは「炎」ですか?
A. いいえ。化学反応(燃焼)ではなく、磁場に支えられたプラズマ(電離気体)です。炎のように見えるのは、Hα線(赤色)で水素プラズマが光るためです。
Q. プロミネンスは熱いですか?
A. 周囲のコロナ(100万℃以上)と比べれば、はるかに冷たい(約5,000〜10,000℃)です。それでも地球的な常識では十分「高温」ですが、太陽の基準では「冷たい雲」です。
Q. プロミネンスは皆既日食のときだけ見えますか?
A. いいえ。日食では肉眼でも見えますが、普段はHα望遠鏡で毎日観測できます。NASAのSDOウェブサイトでは最新の太陽動画が公開されていて、プロミネンスをいつでも確認できます。
Q. フィラメントが消えたらどうなりますか?
A. 消え方によって異なります。徐々に弱まって消えることもありますが、突然噴出すると(フィラメント消失)CMEになることが多く、宇宙天気の重要な予報指標になります。
Q. プロミネンスの材料は何ですか?
A. 主に水素プラズマ(電子と陽子)です。太陽大気全体の組成と同様、水素が約70%、ヘリウムが約28%で、残りが重元素です。

用語整理・参考リンク

用語意味
プロミネンス(紅炎)太陽の縁に立ち上がる、磁場に支えられたプラズマの雲。
フィラメント(暗条)太陽面上に黒く見える、プロミネンスの別視点像。
Hα線水素原子が放つ赤い光(波長656.3nm)。プロミネンス観測に利用。
コロナグラフ太陽本体を遮ってコロナ・プロミネンスを観測する特殊望遠鏡。
噴出型プロミネンス不安定化して宇宙空間に放出されるタイプ。CMEの引き金。
静穏型プロミネンス数週間以上安定して浮き続けるタイプ。
磁力線の谷部アーチ状磁力線の最も低い部分。プロミネンスプラズマが溜まる場所。