皆既日食で太陽本体が月に隠れた瞬間、月のまわりに白い光の冠が広がります。これがコロナ(Corona、光冠)です。ふだんは太陽本体の眩しさに完全に飲み込まれて見えませんが、皆既日食の短い時間だけ、その真の姿を見せてくれます。

コロナは単なる「美しい光の演出」ではありません。太陽の最外層大気であるコロナは、100万〜数百万度という超高温のプラズマで満たされた、宇宙天気の「生産現場」です。太陽風もフレアもCMEも、すべてこのコロナで起きる現象です。太陽コロナを理解すれば、宇宙天気全体の見通しが格段によくなります。

コロナの最大の謎
太陽の表面(光球)は約6,000℃。しかしその外側のコロナは100万℃以上。なぜ「外側が熱い」のか? これは「コロナ加熱問題」として、太陽物理学最大の謎のひとつです。Parker Solar ProbeやSolar Orbiterが今まさに解明に挑んでいます。

コロナとは何か ― 基本データ

コロナは太陽を取り囲む最外層の大気です。「コロナ」はラテン語で「冠」を意味し、皆既日食のときに放射状に広がる様子が冠のように見えることから名づけられました。

温度

100万〜300万 K

活動領域上では1000万Kにも達することがある。

密度

10⁸〜10⁹ 個/cm³

地球大気(2.7×10¹⁹個/cm³)の100兆分の1以下。

広がり

太陽半径の数倍

活動領域の上では特に明るく、さらに上では太陽風に連続する。

観測波長

X線・紫外線

高温ゆえに可視光より短い波長が主な放射。

太陽の層構造の中でのコロナの位置

太陽は内側から外側へ、中心核→放射層→対流層→光球→彩層→コロナという層構造になっています。コロナは一番外側の大気層で、明確な「上限」はなく、徐々に太陽風に連続していきます。

中心核 放射層 対流層 光球 彩層 コロナ ↑ 宇宙空間(太陽風)へ続く
太陽の層構造。コロナは最外層で明確な境界はなく、太陽風に連続しています。温度は内核より低く光球より外側で逆転するのが謎です。

なぜコロナは100万度を超えるのか

熱は通常「高い温度から低い温度へ」流れます。では、なぜコロナは光球(6,000K)より外側にあるのに100万K以上もあるのでしょうか? これは「コロナ加熱問題」と呼ばれ、1940年代に発見されてから現在も完全には解明されていません。

現在有力な2つの理論があります。

  • 波動加熱説(アルヴェン波加熱):光球の対流がアルヴェン波(磁気音波)を起こし、この波がコロナに伝わって散逸(熱に変換)することでコロナを加熱するという説。Parker Solar ProbeとSolar Orbiterの観測で、コロナにアルヴェン波が豊富に存在することが確認されています。
  • ナノフレア説:細かい磁気再結合(ナノフレア)が毎秒無数に起き、その積み重ねがコロナを平均的に高温に保つという説。エネルギー的には十分であることが理論的に示されています。

最新の研究では、両者が同時に働いていると考えられており、コロナの場所(活動領域・静穏領域・コロナホール)によってどちらが支配的かが違うという見方も出ています。

コロナの3つの主要構造

コロナは一様ではなく、太陽の磁場構造に応じていくつかの特徴的な構造を持っています。

太陽 コロナループ (閉じた磁場) コロナホール (開いた磁場) ストリーマー (放射状構造) 高速太陽風
コロナの主要な3構造。コロナループ(閉じた磁場、明るく光る)、コロナホール(開いた磁場、暗い、高速太陽風の出口)、ストリーマー(日食で見える放射状構造)。
  • コロナループ:活動領域の上で明るく光るアーチ状の構造。閉じた磁力線に沿って高密度のプラズマが閉じ込められています。フレアが起きやすい場所でもあります。高さ数万〜数十万km。
  • コロナホール:X線や紫外線で見ると暗く見える領域。磁力線が宇宙空間へ開いており、プラズマが閉じ込められないため密度が低く暗い。高速太陽風の主な供給源です。
  • ストリーマー(冠状突起):日食のときに細長く伸びて見える構造。閉じた磁場領域(活動領域やクワイエットサン)の周辺で見られ、低速太陽風と関連。コロナグラフ画像でよく見えます。

コロナはどう観測するのか

コロナは太陽本体の約100万分の1という非常に淡い光しか放っていません。これは太陽が眩しすぎるために地上の肉眼では絶対に見えず、特別な手段が必要です。

  1. 皆既日食:月が太陽を完全に覆い隠す数分間だけ、コロナが肉眼で見えます。最も古くから利用されてきた方法。
  2. コロナグラフ:望遠鏡の中で人工的に太陽本体を遮蔽する装置。地上のコロナグラフとSOHO/LASCOなどの宇宙望遠鏡がある。コロナグラフでは光球近くの内コロナが見えにくいという弱点も。
  3. X線・紫外線宇宙望遠鏡:コロナは高温のためX線・紫外線を強く放射。SDO(NASA)は毎10秒、マルチウェーブレングスでコロナ全面の動画を撮影。
  4. 電波観測:地上の電波望遠鏡でコロナのプラズマ密度や磁場構造を観測。フレアの電波バーストも捉えられる。

コロナと太陽風の関係

コロナは太陽風の「発射台」です。コロナホールから流れ出るプラズマが太陽風となって惑星間空間を満たしています。コロナを流れるプラズマの速度は最初はそれほど速くありませんが、コロナの外側(アルヴェン臨界点)を超えると、太陽重力より熱運動圧が勝り、急速に加速されます。

コロナの温度と密度の分布が、太陽風の速度と密度に直接影響します。また、太陽活動の極大期にはコロナ全体が乱れ、CMEが頻繁に発生します。CMEはコロナの磁場構造が突然崩れ、大量の磁化プラズマが宇宙空間に放出される現象です。

コロナとフレア・CME

コロナループが活動領域を形成している場所では、磁力線のねじれが蓄積されてフレアのエネルギー源になります。コロナループが突然消え(消失)たり、急速に膨張したりするとき、CMEが起きています。

大型のフレアやCMEは、コロナ全体に「コロナ波(EIT波)」と呼ばれる大規模な圧力波を伝播させます。この波はコロナを超音速で伝わり、磁場構造や太陽活動の全体像を把握するための重要な情報を与えてくれます。

Parker Solar Probeの快挙:2021年4月、Parker Solar Probeは史上初めてコロナの中(アルヴェン臨界点の内側)を飛行することに成功しました。太陽表面から約1,300万km(太陽半径の約19倍)という近さで、コロナのプラズマや磁場を直接サンプリングしています。コロナ加熱・太陽風加速の謎解明に向けた最前線のデータが届き続けています。

主な観測ミッション

ミッション機関特徴
SOHOESA/NASA1995年打ち上げ。LASCOコロナグラフでCMEを連続観測。
SDONASA2010年。毎10秒マルチ波長でコロナの動画を配信。
Hinode(ひので)JAXA/国立天文台2006年。コロナの超高解像度磁場・分光観測。
Parker Solar ProbeNASA2018年。史上最接近でコロナ内部を直接観測。
Solar OrbiterESA2020年。太陽の極を見下ろす高傾斜軌道。コロナ磁場観測。

よくある誤解と学習ポイント

コロナは日食のときだけ見える?
肉眼では日食のときだけですが、コロナグラフや宇宙望遠鏡を使えば毎日観測できます。SDOは24時間365日コロナの動画を公開しています。
コロナが熱いのはフレアのせい?
いいえ。コロナ加熱は太陽全体で常に起きています。フレアは局所的・突発的なエネルギー解放で、コロナ加熱の主原因ではありません。
コロナの「光」は太陽から来ている?
コロナからの光は主に2種類。プラズマ自身がX線・紫外線を発光する「サーマル放射」と、光球の光を散乱する「Kコロナ」があります。日食で見える白い光は主にKコロナ(散乱光)です。
コロナはなぜ「冠」の形に見える?
太陽の磁力線に沿ってプラズマが分布するため、活動期には複雑な形になります。極小期には赤道付近にストリーマーが集中し、比較的シンプルな冠の形になります。

用語整理・参考リンク

用語意味
コロナ太陽の最外層大気。100万〜数百万K。宇宙天気の発生源。
コロナホール磁力線が開いた領域。暗く見え、高速太陽風を放出。
コロナループ閉じた磁力線に支えられるアーチ状の明るい構造。
ストリーマー日食時に見える放射状の光の筋。閉じた磁場の縁。
コロナ加熱問題光球より外側のコロナがなぜ高温かという未解決の謎。
アルヴェン波磁場と流体の振動が伝わる波。コロナ加熱の有力候補。
コロナグラフ太陽本体を人工的に遮蔽してコロナを観測する装置。
アルヴェン臨界点太陽風がアルヴェン速度を超える場所。コロナと太陽風の境界。
EIT波(コロナ波)フレア・CMEに伴ってコロナ全面を伝播する大規模波動。

コロナのリアルタイム観測は、下記リンクで毎日更新されるデータを見ることができます。